私立高校に「合格の可能性」を直接きくことができる「入試相談」は、家庭や塾がお願いすることもできます。
それが、内申の「基準」にもとづいたものであれば、学校が行うものと変わりがないことになります。そうであれば、家庭や塾が別ルートで「入試相談」をする意味はありません。
しかし、そこで、「別の基準」を認めてくれる高校が、かなりあると聞きいています。
「Vもぎ」「Wもぎ」「北辰テスト」などの模試の成績によって、「併願優遇」を出してくれるケースがあるそうなのです。
公式には、「併願優遇」は内申点にもとづいて実施されなければならないとされているので、中学校の先生は、このような「相談」ができるというということを教えてはくれません。
また、高校受験を全体的に組み立てるという意識のない個人塾や、受験の制度をよく知らない塾は、こうした模試の活用の仕方を知らないので、「外部の模試など受けなくてもいい」といった指導を行うこともあるので要注意です。
秋になって、私立高校の「学校説明会」や「入試説明会」が数多く開催されますが、そこで、直接、模試の成績をもとに「合格の可能性」を聞くことができると思います。
(「説明会」は、第一志望の学校に行って、学校の雰囲気を味わって、やる気を出すものだと考えている人は、どちらかといえば、勘違いをしていると思います。)
そこで、例えば、「Vもぎ」の偏差値60以上を2回取っていれば、「併願優遇」措置をとり、「確約」を認めてくれるというような「別の基準」を教えてもらえるでしょう。
学校の内申がそれほどよくない生徒でも、テストでの得点力があれば、有利な「併願優遇」のカードを手にすることができるのです。
模試の成績によって「併願優遇」を認めるというケースは、どうやら一般的にあるということのようです。
中3生は、2学期以降は月に1度くらいのペースで会場模試を受けておいた方がいいと思います。そのことが、あとで意味を持ってくることがあるかもしれません。
さて、しかし実は、このような、模試の成績で「併願優遇」を認めることは、正式なものではありません。もちろん、ホームページや募集要項などにも一切書かれていません。
内申以外の「基準」で高校が「併願優遇」の措置を取ることを、行政は快く思っていないのです。
ですから、こうした話は、もしあるとすれば、高校側と、家庭や塾などの受験者側が「直接」確認し合うはずなのですが、最近は、かなり大雑把な扱いになってきているのかもしれません。
先日、河合塾が、「独自」の基準で受験生に「併願優遇」を約束していたことが明るみになって、ニュースになりました。
河合塾模試で「入試優遇」? 組合が指摘 文科省通知に反する恐れも
河合塾といえば、大学受験予備校のイメージがありますが、中学生が通う高校受験のコースもあります。
今回の「併願優遇」の件も、高校受験のコースでの話です。
ニュースによれば、河合塾は、塾の模試の成績によって「併願優遇」がとれると、保護者に説明をしていたそうです。
これは、もちろんルール違反なのですが、大手チェーンの塾では、よくある話なのかもしれません。
私立7校がこれを認めていたということなのですが、多分、私が想像している高校と一致しているのではないかと思います。
「併願優遇」に積極的な高校は少し調べればわかります。
それにしても、個人的に興味深く思われたのは、これを指摘したのが河合塾の労働組合だということです。
塾独自の基準で「併願優遇」がとれるのであれば、それは塾としての利点です。
その利点を世間に告発して「会社」に不利益を与えているわけです。
こんなことをすれば、従業員である自分たちが困るだけでなく、受験生にも影響が出てしまいます。
おそらく、河合塾の組合は、正義感から不正を告発したのではないのでしょう。
組合は、会社側への何らかの警告か報復・意趣返し、あるいは取引の材料として、こうした行為に及んだのだろうと思われます。もしかしたら、何かゴタゴタがあるのかもしれません。
外部の人間には、もちろん何があったのかは分かりませんが、少し、河合塾には同情してしまいます。ある意味で、組合側の行為は「おきて破り」に近いものだと思います。
しかし、河合塾はすごいなあ、と思いました。
「高校側が公開した情報を保護者に説明している」というコメントを出しています。「強者の言い訳」ですね。
今年、高校側が、河合塾の生徒に「併願優遇」を出すのか、気になりますね。
塾が「併願優遇」を用意するということはどういうことなのか、ということを考えてみました。
こういうことは、本来秘匿されるべきことだと思うのですが、ニュースになってしまったので、明るみに出てしまいました。そこで、新聞記事から読み取れることを推測してみます。
他の高校を第一志望とする受験生の受験者数を増やすことを、メリットとしてとらえている高校はたくさんあります。
高校側としては、「併願優遇」の受験生が第一志望に受かってしまっても、受験料の収入があります。入学することになれば、塾で鍛えられた学力の高い生徒を獲得することができます。見込みよりたくさん入学することになってしまったら、次年度で「調整」するようです。前年の入学者が多かった次の年に、入学者が絞られることがあります。
さらに、高校側としては、大手チェーンの塾はたくさんの受験生を抱えているので、一度に多くの受験生と交渉できるというメリットもありそうです。話がまとまれば、何百人もの受験生を一回の交渉で獲得することができます。
一方、塾側としても、「渡りに船」「魚心」の話になります。学校や本人の事情で、内申が低くて「併願優遇」が取れない生徒にも、「おさえ」を確保させることができるからです。
また、想像どおり、それが塾としての大きな「営業」資源になるということが、今回の報道ではっきりしました。
保護者に対して、「うちの塾にいれば、受験にこんなに有利になるんですよ」という話しをしてしまったということですね。そしてそれは、本来なら許されないことであり、また、やるにしても隠れてやらなければいけないことだったわけです。
そして、このニュースの一番のキモは、「併願優遇」の「基準」に、自分たちで運営している模試の成績を使っていたという点でしょう。
もちろん最後は「信頼関係」なのでしょうが、微妙なのは、その模試を実施し、採点するのが、塾のスタッフであるということです。(まあ、今となっては「信頼関係」は、微妙どころの話ではないのかもしれませんが。)
そう考えると、実は、有名塾に入ることの最も大きな利益は、塾による「併願優遇」にあるといえるのかもしれません。
(本当にそれが「一番のメリット」だとしたら、塾としてはショボ過ぎるとは思いますが。)
最後に、塾の情報管理について考えてみました。以下は雑記のようなものです。
内申以外の基準を用いて「併願優遇」を認めているというような場合、高校側は合格に特別な便宜を図っているわけですから、それが知られたときに、印象が悪くなるのは高校側です。ましてや、文科省の通知を無視して行っていたわけです。
ですから、高校の方は、内密に、という約束をするのですが、そういった「秘密」は塾側から「だだもれ」になってしまうことがよくあります。
塾の方は、秘密情報に関して危機意識が薄いのでしょう。
場合によってはアピール材料になるのですから、なおさら秘密にしておくことは難しかったのかもしれません。
高校側からすれば、生徒や保護者を集めて、「密約」をばらされるとは思ってもみなかったのではないかと思います。
今後も同じような、塾がらみの「情報流出」「情報漏えい」のニュースが聞かれるかもしれません。
ベネッセのニュースもありました。「進研ゼミ」などの顧客の個人情報が流出した事件です。ベネッセから流出した顧客名簿を買った学習塾もかなりあったそうです。
そもそも、大手塾の情報管理には杜撰なところがあるのかもしれません。
大手チェーンの組織形態が、人員集約的ではないため、情報は基本的に拡散してしまいます。
何十、何百とある校舎・教室間を情報が行きかうような組織構造になっているのです。
プライベートなやり取りと重要な極秘情報が、全く等価に、同じようにメールで送受信されているのではないかと思います。
そのせいで、情報に対する扱いが不用意になることがあるのかもしれません。
大手塾の宿命として、学生講師で授業を「回す」という営業形態をとっていることにも問題があります。さらに、大手塾の中には、学生アルバイに営業などの電話をさせるようなところもあるそうですが、一般企業では、普通、「外部」の人間は顧客の個人情報にアクセスできないようなシステムになっています。
大手学習塾チェーンは、教務や営業といった基幹業務を「アルバイト」にゆだねています。そうしなければ「店舗」を運営できないような、脆弱なビジネスモデルとなりつつあるのだといえるでしょう。
いってみれば、外部の人間がコアな情報に触れることができる、危ない情報管理体制になっているのです。
さて、ivyでも、スタッフが私立高校にうかがって、情報交換をさせていただくことがあります。
やはり塾としては、受験生には「おさえ」の高校を用意してあげたいですし、本命の高校になんとかして入れてあげたいと思います。
その気持ちは、どんな塾にいようと、変わらないものなのだろうな、と思います。
私たちは小さな塾ですから、謙虚に、誠実に受験指導していきたいと思います。
(ivy 松村)