もう、10年以上前ですが、メキシコを旅行しました。
そもそもはアメリカに住む友人を訪ねることが目的だったのですが、ついでにキューバに行こうという計画になり、キューバの対岸にあるカンクンというメキシコの都市を訪れたのです。
さて、メキシコの独立記念日、そんなわけで、私はたまたまカンクンに滞在していました。
毎年、独立記念日の前の日の夜、メキシコ各地では盛大に独立を祝います。
カンクンは、メキシコ有数のリゾート地です。その町の中心部でも、やはり華やかな「前夜祭」が催されました。
ビールを飲んだりタコスを食べたりしながら花火を眺めていると、メキシコのお兄ちゃんたちが何やらチケットを見せながら、こっちにこい、と私を誘うのです。
何だかよくわからないまま、ついて行ってみると、「ロデオ大会」の会場に着きました。
会場の真ん中に「機械の牛」が設置されていて、その背にまたがった出場者が、どれだけ振り落とされずにいられるかを競うのです。
多分、昔は「本物の牛」でやっていたのだろうと思います。
彼らは、私に「出場しろ」というのです。
私に、先ほどの「チケット」を10枚ほど手渡し、これで1回出場できるので、あっちに行って出場の手続きをしろというのです。
きっと、お店などで買い物をするとその「チケット」がもらえて、10枚集めると、「ロデオ大会」に出場できたり、何か食べ物と交換できたりするのでしょう。何か、日本の商店街のお祭りと似ていて、親近感がわきます。
カンクンは、アメリカ人やヨーロッパ人が多く訪れるリゾート地ですが、東洋人は珍しかったのだろうと思います。それで彼らは、ちょっと、その奇妙な日本人を構ってみたかったのかもしれません。
私は、出場してみることにしました。
「機械の牛」だからといって決して安全というわけではありません。
その動きは、獰猛な牛そのものです。まったく「リアル」な牛の動きが再現されています。
見ていると、出場者はだいたい2、30秒ほどで振り落とされていました。
鐙や手綱もなく、ただ、突起した「牛」の背の部分を両手でつかんで、暴れる牛にしがみついていなければなりません。
「オーレ‼」
その「機械の牛」は、私を振り落とそうと、急な方向転換を繰り返したり、しつこく飛び跳ねたりしました。
開始後20秒くらいに、多くの挑戦者を脱落させた、「回転」と「跳ね上がり」のコンビネーションがやってきます。
なんとか、耐えきりました。
40秒を過ぎたあたりから、「連続高速旋回」が始まります。
しがみついてこらえていると、聴衆から拍手が沸き起こりました。
あともう少しで1分というところで、振り落とされてしまいました。
でも、私の記録はけっこう良かったみたいで、私が退場するまで、聴衆が拍手や口笛でたたえてくれました。
私を出場させてくれたお兄ちゃんたちも、祝福してくれました。
なかなか貴重な体験でした。
あれから時が経って、私は塾の教師をしていますが、今でも、振り落とされないように、何かにしがみついているような気がします。
(ivy 松村)