高校受験に限らず、学校の「ランキング表」というものが存在していて、受験生はそれを参考にして受験校を決めます。
こうしたランキング表のほぼ全ては、偏差値を用いて「難易度」を数値化し、可視化することで、それぞれの学校の序列を定めようとします。
偏差値については以前から多くの問題点が指摘されていますが、それでも、受験に用いられるデータとして最も有効な指標であるとみなされ、広く世間に受け入れられています。
偏差値は、万能ではないとしても、生徒一人ひとりの相対的な「学力」をはかり、また、それぞれの学校の入試の「難易度」を測定することができる最有力の尺度であると考えられているわけです。
(偏差値の問題点については、また別の機会に。)
高校受験のランキング表には大きく分けて「模試系」「塾系」のものがあります。
また、それ以外に「出版社系」のものや独自に作成されたものも数多く存在します。
おそらく、データの質、量ともに他を圧倒しているのは「模試系」のランキング表です。
しかし、「模試系」のランキングは、皮肉にも、データに忠実であるがゆえに、「内実」を反映しないことが起こり得ます。
偏差値が50の学力があれば十分に合格できるはずの高校に、偏差値60以上の受験生が多数「誘導」されれば、その高校の「偏差値基準」は高騰することになります。
私立高校は、さまざまなアイデアを駆使して受験生を集めようとするわけですが、ひたすら多くの受験生を集めればよいというものではありません。
当然、学力の高い生徒を集めたいと考えます。
「模試」で高成績を収めている生徒を受験生として多く集めることができれば、結果として、その「模試」によるランキングにおいて、その高校の位置づけは上昇することになるわけです。
近年、あるタイプの私立高校にとって、非常に効果的な「妙手」が見出されたように見受けられます。
この数年で、「特進クラス」や「選抜クラス」などを設置する高校が増えていますが、その入試に「スライド合格」の制度が取り入れられるようになってきました。
「特進クラス」に出願し、入試得点で合格点に届いていない場合でも、「特進クラス」よりも下位の「普通クラス」で合格を得られるという制度です。
万が一「特進クラス」の入試で力を発揮できなかったとしても、「普通クラス」という「おさえ」があるので「安心」できるというわけです。
しかし、「スライド制度」は、必然的に、合格できない可能性のある「ガチンコ」の入試でなければ成立しません。したがって、「普通クラス」で「止まる」かどうか、も結果次第であるということになります。
そうすると、当日に大きなミスをしてしまって、最終的に「スライド」の「おさえ」が利かず、「普通クラス」にも引っかからないということもあり得るわけですから、十分な学力を持った受験生であっても一抹の不安を持つにちがいありません。
もちろん、「すべては得点次第」という高校もあるでしょうが、おそらく、いくつかの場合、「普通クラス」で「スライドが止まる」という「見込み」があって、受験が成立しているのではないかと思うのです。
いくつかの中学で、「スライド制度」を行っている私立高校と都立高校の「2本立て」の受験を勧められる生徒がいます。
もし「普通クラス」で「スライド」の「おさえ」が利かないという事態が起こり得るならば、別の「おさえ」が必要になるはずです。
中学校の先生は「おさえ」の保証のない受験に主導的な「ゴーサイン」を出しません。
つまり、この受験パターンは、中学校の先生が後見している形式であるということになります。
端的に、「スライド制度」がシステマチックに機能しているのならば、誰もがみんな「特進クラス」で受験をしたほうがいいということになってしまいます。
「特進クラス」の入試を受けておけば、「普通クラス」の学力しかない生徒でも、運よく「特進クラス」に入れるかも知れないのですから。また、最終的に「普通クラス」に落ち着いたとしても、マイナスは被っていないわけです。
ところが、不思議なことに、中学校の先生は、学力的に厳しい生徒に対して「特進クラス」の受験を控えたほうがいいという場合があるのです。
何の話をしているのかといますと、高校側は「特進クラス」のランキングを上昇させたいと考えているので、できる限り偏差値の高い生徒に「特進クラス」を受験してもらいたいという思惑があるのではないかということについてです。
高校側は、「特進クラス」を受験する生徒の「学力」を下げたくないと考えるわけです。「合格者の学力」ではありません。「受験者の学力」を高く保ちたいわけです。
もし、私が高校の入試担当者であったとするならば、学力の高い生徒に、「特進クラス」の受験を促すように働きかける戦略を取るでしょう。
「特進クラスには入れない可能性はあるけれども、スライドで止まるはずだから安心して受けてください。」
もちろん、これは、あくまで私が高校の入試担当者であったら、という「if」の話です。
「特進クラス」の「難易度」を維持しつつ受験生を多数集めるためには、「選別」と「保険」を同時に用意することが非常に効果的だと思われます。
学校の成績が良い生徒に対して、「ガチンコ」の入試を受けてもらうために、積極的に「おさえ」を用意するわけです。あるいは、「おさえ」を保証することで、「ガチンコ」の入試のハードルを下げるわけです。
また、なんとか「模試」の成績が優秀な生徒に受験してもらいたいと考えるわけですが…、ともかく、学校の成績が良い生徒はたいてい「模試」の成績も良いでしょう。
ですから、もし、私が上記のような高校の入試担当であったならば、やはり、中学校の先生と密に「入試相談」を行いたいと考えます。
つまり、中学校の先生を通じて、「成績」の高い生徒が「特進クラス」を受験する「メリット」をアピールしようというわけです。
「スライド合格」の制度を「入試の得点に応じたレベルの合格」が得られるものであると考えると、一見シンプルでわかりやすいと感じられるかもしれません。
しかし、一方で、「確約」がもらえる「併願優遇」などに比べて見えづらい部分がありそうです。
一般的な「併願優遇」の受験では、「確約」が得られるかわりに、第一志望がダメだったときにその高校に必ず入学する「しばり」が条件づけられます。
「スライド制度」は「特進クラス」が不合格になる可能性を「否定できない」ので、原理的に入学の「しばり」を付けることができません。
「普通クラス」にしか進学できなくなくなる可能性はありますが、必ず入学してください、とは、いくらなんでもいえないわけです。
ここは、「スライド制度」の「弱点」です。
もし、私が、高校側の入試担当者であったとしたら、中学校の先生が「最少の受験パターン」を生徒に提示してくれる方がありがたいと感じるでしょう。
ですから、必ず「普通クラス」で「止まる」はずなので、「最少の受験パターン」を組むことができるという「メリット」を熱心にアピールすることになるでしょう。
逆にいえば、「スライド制度」を軸にした受験パターンは、「しばり」がないので、「入試相談」の日の後になっても、受験校を追加することができるわけです。
そして、それが、一番避けたいことになるわけです。
さて、「塾系」のランキング表では、相対的に「特進クラス」のランクは低めに設定されています。
一般的に、大手の進学塾に通っている生徒は、「特進クラス」タイプの高校よりも「附属系」を志望する生徒の割合が多くなるので、その傾向がランキング表に反映されるのでしょう。
さらに、塾の、学校の序列に対する「シビアさ」がランキングを決定付けているということも、少なからずあると思います。
塾スタッフは、実際の入試問題や志願者の傾向、あるいはさまざまな「事情」を加味してランキングを打ち出すことがあります。また、ときとして、その塾の指導体制の外側にいる「一般的な受験生の動向」を取り除いてランキングを構成することが必要になることもあるでしょう。
要するに、「主観的な調整」が行われるわけです。
受験に関する総合的な知識や情報を持った「専門家」が作成するランキング表には、合理的で整合的なものが多くあります。
しかし、そのような操作を行うことには、「根本的な問題」が横たわっているといわなければなりません。
それを許容するのであれば、受験資料に偏差値という「客観的な数値」を用いる「根拠」がなくなってしまうからです。
「塾系」のランキングの弱点は、「木を見て森を見ず」ではありませんが、自塾の「論理」や「認識」に頼り過ぎてしまい、全体的な傾向を見落としてしまうことが起こり得ることです。
いくつかの「塾系」のランキングは、実際の受験の動向をキャッチアップできずに、その構成が現実と乖離した内容になってしまうことがあります。
特に、動きの激しい都立高校のランキングで、客観的な数値とギャップのあるものがいくつか見受けられました。
一方、「模試系」のランキングは、実際の受験の動向をダイレクトに反映します。
たとえば今年、あるランキング表では、立川高校と八王子東の序列に少し変化がみられました。
立川高校に学力上位の生徒が集まっているという「根拠」があるのだと思います。
また、倍率や難易度が急上昇している旧学区の2番手、3番手の進学校の実情も速やかに更新されています。
「模試系」のランキング表は、毎年、それぞれの高校の志望者の学力分布や合否結果の追跡調査による詳細なデータをもとに作成されます。
受験のランキング表には、それぞれ一長一短があるといえます。
参考にする際には、どれかひとつだけをたよりにするのではなく、いくつかを見比べてみたほうがいいかもしれません。
(ivy 松村)