「打消」の助動詞には「ない」「ず」「ぬ」に加えて、「ん」があります。
この中で、「ん」は、方言や話し言葉にみられるものです。
標準語では「~ません」という言い方にあらわれます。
「走る」という動詞を打消してみましょう。
例:
走らない
走らず
走らぬ
走らん
「ん」と「ぬ」は音が近いので、口語文法の説明で、これらを同一視しているものもあります。
文語(古文)では、「ん」と「ぬ」は別の単語ですので、分けて考えなければなりません。
古文を読むときには、「ん」に注意が必要です。古文を読んでいて、「ん」が出てきても、「打消」の意味で読み取ってはいけません。
古文では、「ん」は「意志」や「推量」などの意味を持つ助動詞として使われます。
(「ん」は「む」と表記されることもあります。この場合、いずれも「ん」と発音します。)
例:
我、行かん。 (私が行こう。) 「意志」〈~ウ/~ヨウ、~タイ〉
彼、行かん。 (彼が行くだろう。) 「推量」〈~ダロウ、~ウ/~ヨウ〉
古文で「行かん」という言葉が出てきても、「行かない」という意味ではないので、注意しましょう。
では、中3の教科書(光村図書)で、「ん」の使われ方を確認してみましょう。
151ページ(『奥の細道』):
春立てる霞の空に白河の関を越えむ(ん)、と…
「立春の頃に、霞の立ちこめる春の空の下で白川の関を越えようと…」
教科書では「超えたい」という訳がつけられています。
251ページ(『史記』):
虞や虞や 若(なんじ)を奈何(いかん)せん
「虞よ、虞よ、そなたをどうしよう。(どうすることもできない。)」
悲運の将軍項羽の嘆きの詩の書き下し文です。反語となっている表現にも注意しましょう。
「打消」の助動詞のまとめです。口語(現代文)と文語(古文)との意味の違いを確認しておきましょう。
口語(現代文) | 文語(古文) | 例 | 現代語訳 | ||
ず | 打消 | 打消 | 行かず | 行かない | |
ぬ | 打消 | 完了(打消) | 行きぬ | 行った | |
ん | 打消 | 意志、推量など | 行かん | 行こう、行くだろう |
(ivy 松村)