今日は中2授業で、助動詞の「れる・られる」と可能動詞の識別について講義しました。
ちょっと複雑な内容だったので、理解が大変だったようです。
あらためて説明します。
可能動詞というのは、五段活用動詞をもとにしてつくられた、「~することができる」という意味をもつ新たな動詞(下一段活用)のことをいいます。
五段活用動詞とは、手短に説明すると、「ない」に接続したときに、その直前の文字が「ア段(-a)」になるタイプの動詞のことです。
たとえば:
「泳ぐ」→泳「が」ない・・・「が(ga)」 ガ行ア段→五段活用動詞
「読む」→読「ま」ない・・・「ま(ma)」 マ行ア段→五段活用動詞
「歩く」→歩「か」ない・・・「か(ka)」 カ行ア段→五段活用動詞
「買う」→買「わ」ない・・・「わ(wa)」 ワ行ア段→五段活用動詞
こうした識別法を用いることで、これらの動詞が五段活用動詞であることが分かります。
さて、五段活用動詞をもとにして、可能動詞と呼ばれる別の動詞を生成することができます。
「泳ぐ」→「泳げる」(可能動詞)
「読む」→「読める」(可能動詞)
「歩く」→「歩ける」(可能動詞)
「買う」→「買える」(可能動詞)
「売る」→「売れる」(可能動詞)
これらはもとの五段活用動詞とは別個の単語として存在しています。
試しに活用をさせてみるとよくわかります。「ない」を接続してみましょう。
「泳げる」→泳「げ」ない・・・「げ(ge)」 ガ行エ段→下一段活用
「読める」→読「め」ない・・・「め(me)」 マ行エ段→下一段活用
「歩ける」→歩「け」ない・・・「け(ke)」 カ行エ段→下一段活用
「買える」→買「え」ない・・・「え(e)」 ア行エ段→下一段活用
「売れる」→売「れ」ない・・・「れ(re)」 ラ行エ段→下一段活用
今度は「エ段(-e)」で活用していることが分かります。このような動詞は下一段活用動詞と呼ばれるものです。
これらは、すでに五段活用動詞とは別の種類の動詞であるということになります。
ここからが、非常に面倒な話になります。
実は、五段活用動詞以外の動詞からは可能動詞を作ることは許容されていないのです。
五段活用以外の動詞に「~することができる」という意味を付加したいときには別の方法を用います。
助動詞を使って「可能」を表すのです。
「可能」の意味を持つ助動詞は、「られる」です。
たとえば、下一段活用動詞である「調べる」の場合、語形を「調べ」と活用させ、それに「られる」を接続して「調べられる」のような形を作ります。
可能動詞である「泳げる」は1語の単語なのですが、「調べられる」は「調べ」と「られる」の2語を用いて表されていることになります。
五段活用動詞とそれ以外の動詞では、「可能」の意味を表すときには、異なった方法を用いているのです。
同じように、以下の動詞も五段活用動詞ではないので、「られる」を用います。
着る→着「られる」 (×着れる:誤用)
寝る→寝「られる」 (×寝れる:誤用)
見る→見「られる」 (×見れる:誤用)
来る→来「られる」 (×来れる:誤用)
食べる→食べ「られる」 (×食べれる:誤用)
起きる→起き「られる」 (×起きれる:誤用)
これらは、俗にいう「ら抜き言葉」として使ってしまいやすいものです。
可能動詞の生成原理を知っていれば、「食べれる」のような「ら抜き言葉」がなぜ間違った言葉づかいとされているのか理解できます。
「ら抜き言葉」は五段活用以外の動詞から可能動詞を生成しようとして生み出されたものであるといえますが、可能動詞を生成することができるのは五段活用動詞だけです。それ以外の動詞は可能動詞を生成する「資格」がありません。
また、五段活用動詞(とサ変の未然形「さ」)以外の動詞は「れる」を接続することはできません。
上一段活用、下一段活用、カ行変格活用の動詞は、「られる」を用いて「可能」を表さなければならないのです。
このように、文法の原則に即して考えてみると、「ら抜き言葉」は原則から逸脱した運用をされているいうことになります。
ですから、正しくない言葉づかいであるとされているのです。
ただ、多くの言語学者が指摘しているように、「ら抜き言葉」はいずれ日本語のスタンダードに組み込まれていくと思います。意味の伝達に支障がなければ、言葉というものは文法の枠組みからはみ出していくものです。
さらに「れる・られる」について復習しておきましょう。
「れる・られる」には4つの意味があります。まず「られる」です。
①「可能」 すぐに覚え「られる」。
②「受け身」 社長にほめ「られる」。
③「尊敬」 先生が来「られる」。
④「自発」 母のことが案じ「られる」。
次に「れる」です。
五段活用動詞の場合には「れる」が接続されます。前述のように、五段活用動詞の場合、「可能」の意味は、可能動詞を用いて表すことがほとんどです。ですから、「れる」は、基本的には残りの②「受け身」③「尊敬」④「自発」のいずれかの意味で使われます。
(※①「可能」 すぐに行か「れる」。→「行ける」〈可能動詞 ※助動詞を用いていない〉)
②「受け身」 相手チームに点を取ら「れる」。
③「尊敬」 先生が話さ「れる」。
④「自発」 故郷のことが思い出さ「れる」。
演習の問題にも出てきましたが、上の②の例の「取られる」は「られる」ではなく「れる」であることに注意が必要です。
「取らない」という語形を作ってみれば明らかです。「ない」は「取ら」に接続しています。
つまり、「取る」という動詞は「取ら」という形に活用し、それに「れる」が接続しているのです。
ですから、「取ら」「れる」というように切らなければならないわけです。
最後に、意外に生徒のみなさんが苦戦していた「ひっかけ」についてです。
「さびれる」「乱れる」「暴れる」「現れる」「別れる」などは、可能動詞ではありません。
落ち着いて考えれば、これらの動詞には「~することができる」という意味が含まれていないことがわかると思います。
それにしても、付属語の授業は、説明が多くなってちょっと申し訳ない気持ちです。
漢検の勉強とのバランスをとって進めていくつもりなので、ある程度分割して説明していくことになります。
入試でも出題例が多いところですし、中学の定期テストでも難度の高い問題が出されるようになってきました。
大変ですが、明日もがんばっていきましょう。
(ivy 松村)