出願変更は、一般的には、二つの流れが考えられます。
つまり、上位校への「差し込み」と下位高への「引き下げ」です。
実は、上位校であればあるほど、二つの流れののうち、圧倒的に「引き下げ」の方が多くなります。
都立高校のヒエラルキーの頂点である日比谷高校の、本年度の応募倍率は、男子3.29、女子2.46でした。あいかわらず、男子が高い倍率を示しています。
これから、この倍率は、志願変更で、一体どのように変化するのでしょうか。
日比谷の男子の、昨年度の倍率の推移を見てみましょう。
26年度の日比谷高校の出願時の倍率は3.05でした。これは、近年では最も低い倍率です。
日比谷高校受験を視野に入れている受験生にとっては、「差し込み」の状況です。
ところが、志願変更後の倍率は2.99となりました。
「引き下げ」を行い、他の高校へと志願者が流れたのです。
それでも倍率が約3倍ですから、他の都立高校と比べてもその高さは群を抜いています。
日比谷のような難関校の場合、さらにその倍率は下がります。
出願者のなかで、受験をしない生徒が出てくるのです。
日比谷に出願している志望者には、国立大学附属高や私立の難関校との併願受験をしている受験生が多くいます。その中で、都立受験の前に第一志望に合格した受験生は、日比谷の入試を受ける必要がなくなります。
受験者はさらに減少するので、実質的な倍率はさらに下がります。
日比谷の、受験者を合格者で割った最終的な倍率は2.03となりました。
この年度の男子の最終応募者は400人で、受験者は305人です。約4分の1にあたる95人が受験をしなかったことになります。
このように、日比谷高校のような難関校では、出願時の倍率はその後下降する傾向にあります。
しかし、もしかしたら、本年度の志願変更後には倍率が上昇するということがあるのかもしれません。
全体的には、都立高校の出願時に、最も行きたいと思っている高校ではなく、最初は安全圏の高校に出願しておくという選択をする生徒は、あまり多くないと思われます。
まず、当たり前ですが、出願時に安全策をとることは、志望校に行きたいという気持ちの腰を折ってしまいます。
モチベーションの維持という点から考えても、具体的な理想形を設定したうえで受験の行程を進め、万が一のときに志願変更を行うというのがセオリーであることは間違いありません。
ですが、窮余の処置としては、志願変更を念頭においた出願も、あり得るのかもしれません。
過去3年間の、志願変更による各高校の受検応募者の増減をみてみましょう。
26年度 | 25年度 | 24年度 | ||||
日比谷 | 男 | -9 | -6 | 0 | ||
女 | -8 | -10 | -14 | |||
西 | 男 | -6 | 1 | -8 | ||
女 | -10 | -9 | -6 | |||
国立 | 男 | -3 | -6 | -8 | ||
女 | -14 | -19 | -17 | |||
戸山 | 男 | -4 | -22 | -7 | ||
女 | -7 | 3 | -12 | |||
八王子東 | 男 | 3 | 8 | 6 | ||
女 | -5 | 1 | 0 | |||
立川 | 男 | -5 | 5 | 14 | ||
女 | 2 | 2 | 0 | |||
青山 | 男 | 1 | 5 | 8 | ||
女 | 2 | 3 | 1 | |||
新宿 | 男 | 2 | -5 | -21 | ||
女 | 5 | -16 | -11 | |||
国分寺 | 男 | -13 | -19 | -13 | ||
女 | 5 | -8 | -2 | |||
武蔵野北 | 男 | -20 | -21 | -20 | ||
女 | 2 | -12 | 1 | |||
町田 | 男 | -3 | -6 | -1 | ||
女 | -2 | -4 | 5 | |||
小金井北 | 男 | -26 | -17 | 8 | ||
女 | -4 | 24 | -2 | |||
調布北 | 男 | 6 | 17 | -21 | ||
女 | -4 | 4 | -2 | |||
日野台 | 男 | 8 | 16 | 0 | ||
女 | 5 | 2 | 7 | |||
南平 | 男 | -14 | 1 | -8 | ||
女 | -12 | 10 | -5 | |||
昭和 | 男 | -18 | -22 | -2 | – | |
女 | -1 | -9 | 6 |
国立、西、日比谷、戸山といった最難関校は、基本的に志願者が流出します。
従来は、その流出先は八王子東、立川、青山などだったのですが、昨年度から少し状況が変わってきています。
人員の流出をあらわすマイナスは、高校の不人気をあらわすものではありません。
むしろ、マイナスの大きさはある意味で、高校の人気を示す指標とみることができます。
なぜなら、それは、学力的に合格が危うい受験生が、それでもその高校に行きたくて、望みをかけて出願したものであるとみることができるからです。
できればその高校に行きたいという希望を持っていた受験生が、現実的な判断によって志願変更を行ったものなのです。
この表だけでは読み取ることができませんが、各高校の倍率の推移をみてみると、人員の流出と出願時の倍率には相関があることがわかります。
つまり、出願時の倍率が、ある数値を超えてくると、流出が起こるという現象が確認できます。
そして、また別の情報と照らし合わせてみると、多くの受験生は、実は「ほとんど倍率しか見ていない」ということもわかってきます。
募集人員の設定や増減によって倍率が変動することを考慮していません。
また、入試制度の変更、あるいは各高等学校の事情など、倍率の増減をもたらす要因はいくつかあります。
さらに、「玉突き現象」によって、「別の高校」の倍率が大きく変化してしまうこともあります。
例年、志願変更によって倍率に大きな変化があらわれるのは、旧学区の2番手、3番手の人気校です。
いい方をかえていうならば、共通問題の上位校です。
「グループ作成校」の出願から、志願変更で「引き下げ」てくる受験生もいれば、倍率をみて危機感を持った志願者が流出するケースもあります。
受験は、本来ならば、心に決めた志望校合格に向けて、邁進していくのが理想なのでしょう。
そして、多くの人が、「大逆転」で合格をつかみ取るという「美しい物語」を期待します。
それは、もちろん、それで一つのありかたです。
しかし一方で、塾の教師としての経験のなかでは、現実的な判断によって、納得できる終わりの形になってよかったな、と思うことがたくさんありました。
大切なのは確実な結果を残すことです。
昨日までに、取下げの手続きを行っていない受験生は、もう、覚悟を決めなければなりません。
後はただひたすら、都立入試のために一日一日のなかで、意味ある取り組みを行っていくだけです。
(ivy 松村)