今年の都立高校入試の社会の平均点は、昨年と比べて少し上昇しました。
◎社会の平均点
・平成30年度…「61.5」
・平成29年度…「58.6」
昨年と比べて、2.9ポイント上がったことになります。
この結果は、少し意外な気がしました。
今年の平均点は、もう少し低くなると感じていたからです。
それで、ちょっと子細を確認してみました。
東京都教育委員会が公表している「東京都立高等学校入学者選抜学力検査結果に関する調査」によれば、今年の社会の小問、大問ごとの「正答率」は以下のようになっています。
大問 | 小問 | 小問正答率 | 大問正答率 | |
1 | 1 | 95.7 | 65.9 | |
2 | 28.4 | |||
3 | 73.5 | |||
2 | 1 | 53.8 | 45.6 | |
2 | 38.8 | |||
3 | 44.2 | |||
3 | 1 | 75.7 | 72.4 | |
2 | 75.1 | |||
3 | 66.5 | |||
4 | 1 | 41.6 | 52.1 | |
2 | 62.4 | |||
3 | 58.5 | |||
4 | 45.8 | |||
5 | 1 | 94.5 | 72.0 | |
2 | 78.1 | |||
3 | 60.2 | |||
4 | 55.3 | |||
6 | 1 | 24.4 | 38.8 | |
2 | 59.4 | |||
3 | 32.5 |
このデータは、「抽出調査」によって求められたものです。
そのことには、ちょっと気をつけなければならないと思います。
つまり、これらは、都立高校の受験生のすべての得点状況を集計したものではないということです。
平均点と得点分布は、全ての受験者の得点から算出されていますが、「正答率」は、一部の受験生のデータをもとに、「全体」の数値を「推測」する手法で算出されています。
受験生一人ひとりの得点は、採点の際に、各校ごとにデジタルのデータで入力、保存されます。それを合算すれば、平均点や得点分布を出すことができます。
しかし、さすがに小問ごとにすべての得点を入力するのは手間がかかりすぎるのでしょう。
受験生全体の学力差をふまえて、いくつかの学校を選び、そこで得られたデータを「処理」して「正答率」を出しているのだと思います。
調査法が示されていないので、詳細はよくわかりませんが、きっと、「統計学」の理論にもとづいて、「信頼度」が担保できるような方法がとられているのだろうと思います。
「小問正答率」から「平均」を求めると、「58.2」になります。(「大問正答率」から「平均」を求めると、「57.8」になります。)
先ほど述べたように、「小問正答率」は全受験生のデータではないので、実際の平均点と齟齬が出るわけです。実際の平均点は「61.5」なので、その差は「3.3」になります。過去10年の「小問正答率」を出して確認してみましたが、今年は、例年に比べて差異が大きくなっています。
また、「正答率」は、「部分正答も含めた割合」になっています。
つまり、「記述問題」などの解答に不備があり、点数を引かれていても、「正答」としてあつかっているわけです。
都立高校入試の社会は全ての問題が5点の配点となっていますが、そのうち、4点や3点、2点や1点しか得られなかった場合でも、その解答を「正答」に含めて「正答率」を出しているわけです。
そうすると、「小問正答率」の「平均」は、そうした「満点ではない解答」を「5点」として計算することになります。
したがって、「正答率」を算出するのに用いられた「サンプル」の「実際の平均点」は「58.2」よりもさらに低い数値になるはずです。
まあ、ともかく、「正答率」のデータを信頼して読み解いてみましょう。
データをよく見てみると、「正答率」が、90パーセントを超えた設問が、2題あります。
大問1の〔問1〕と大問5の〔問1〕です。「正答率」はそれぞれ95.7パーセント、94.5パーセントになります。
この2題が、今年の社会の「平均点」を押し上げました。
仮に、この2題の「正答率」が80パーセントだったならば、「小問正答率」の「平均」は、「56.7」まで下降します。
過去10年間で、「正答率」が90パーセントを超えた設問は、3題しかありません。
そのうちの2題が、「今年」だったわけです。
ちなみに、「正答率」が90パーセントを超えているもう1題は、平成25年度の大問1の〔問2〕です。「正答率」は、91.0パーセントです。
今年の都立高校の入試の社会は、ほとんどの受験生が造作もなく答えられる設問が2題あり、約95パーセントの受験生が、10点を易々と確保できたわけです。
また、それ以外にも、「正答率」70パーセントを超える設問が、さらに4題ありました。
その一方で、今年は難度の高い出題がみられました。
「正答率」30パーセントを下回る設問が、2題あります。
大問1の〔問2〕と大問6の〔問1〕です。
過去10年間で、「正答率」が30パーセントを下回った設問は、9題あります。
そのうちの2題が、「今年」だったわけです。
ちなみに、その9題のうち、5題が、「世界地理/世界史」の問題です。
今年の2題も、「世界地理/世界史」の問題でした。
また、「正答率」30パーセントを下回った9題のうち4題は「完全一致問題」です。また、2題が「語句筆記」の問題です。残りの3題が、「4択問題」です。
くじ引きのように、完全に恣意的な選択を行った場合、「4択問題」の「正答率」は25パーセントに収束します。したがって、「4択問題」の「正答率」が30パーセントを切って25パーセントに近似するということは、その設問はことのほか受験生を苦しめる問題だったということになります。
今年の社会の入試問題の大問1の〔問2〕は、「4択問題」で、「正答率」は28.4パーセントでした。
大問6の〔問1〕は「完全一致問題」で、「正答率」は24.4パーセントでした。
今年の社会の入試問題は、正答を求めるのが難しい設問が用意されました。その設問の印象から、私や、何人かの教師は難度が上がったと判断しました。
その一方で、ほとんどの受験生が正答できるような、著しく簡単な出題があり、平均点を押し上げました。
こうした点が、入試問題に対する「印象」と平均点に乖離をもたらした、というわけです。
今年西高に合格した生徒が、過去問演習時に比べて、入試本番で点数を少し落としていました。
得点分布をみても、やはり「95~100点」の割合が、昨年に比べて減っています。
このあたりは、難度の高かった例の2題の影響ですね。
(ivy 松村)