最後に、「H」に与えられたもうひとつの「役割」を紹介して、「H」の話は終わりです。
前に、古代ギリシアにおいて、「ハヒフヘホ」=[h]の音が失われ、[h]の音を表す「Η」の文字は「ヘータ」という呼称から「エータ」という呼称に変わったという話をしました。
その後、「Η」=「エータ」には、別の「役割」が与えられました。
それは、「長音」の表記です。
「長音」とは、「伸ばす音」のことです。
4月に入って、猫も杓子もメジャーリーグの大谷選手の話題で持ちきりですが、彼のユニフォームには「OHTANI」と書かれていますね。
「オータニ」の「ー」を表すのに、「H」が使われています。
英語で日本語の語彙を表記する場合、一般的に使われているのは「ヘボン式ローマ字」です。
(小6の生徒たちは、英語の授業でヘボン式ローマ字を練習しました!)
「ヘボン式ローマ字」では、基本的に「長音」を「省略」して表記します。
たとえば、「東京」は「Tokyo」、「九州」は「Kyushu」になります。
「大阪」は「Osaka」、「大分」は「Oita」です。
大谷選手の「OHTANI」のような表記は「ヘボン式ローマ字」ではありません。
学校や塾で習う「ヘボン式ローマ字」以外にも、「ローマ字」にはいくつかの「種類」があるのです。
「ヘボン式ローマ字」で表記すると、「大谷」は「OTANI」です。
そうなると、「大谷」なのか「小谷(おたに)」なのか判別できないわけですが、英語にとって、それは「日常的なこと」です。
「読み方がわからない言葉」というのは、英語の中にありふれています。
(実は、それは日本語でもいえることで、日本にも「読むのが難しい熟語」がたくさんあります。)
しかし、スポーツ選手は、自分の名前をファンになるべく正確に覚えてもらいたいわけです。
それで、スポーツ選手の登録名やローマ字の表記は、「H」を使って「長音」を表し、より正確な発音に近づけているのだと思います。
「H」で「長音」を表す表記法は、日本人が勝手に考えてやっているのではなく、古代ギリシア語に「ルーツ」があります。
英語は、それを受け継ぎませんでした。
一方、それを受け継いでいる言語があります。
ドイツ語です。
以下のドイツの音楽家の名前を確認してみましょう。
Mendelssohn「メンデルスゾーン」
Brahms「ブラームス」
彼らは、クラシック音楽の世界では非常に良く知られた「巨匠」です。
「h」が、「長音」を担っているのがわかりますね。
大谷選手の「OHTANI」に見られるように、日本語を「ローマ字」で表記する際に「長音」を「H」で表すことがあります。
実は、それは、古代ギリシアに由来する、正統な「H」の使い方のひとつなのです。
(ivy 松村)