古代ギリシア語には、「タチツテト」の音が2つありました。
したがって、「タチツテト」を表記するための文字が2種類ありました。
1つは「Τ」です。この文字は「タウ」といいます。
これが英語の「T」(ティー)の由来ですね。
もうひとつが「Θ」です。この文字は「テータ」と呼ばれました。
「テータ」は、強く発音するもうひとつの「タチツテト」を表記するために使われました。
そして、古代ギリシア語がラテン語に取り入れられる際に、「テータ」は「二重字」で表記されるようになります。
「th」です。
しかし、ラテン語ではその後、両者の発音は同一化し、「th」は「タチツテト」=[t]の音に統合されます。
そのため、イタリア語、フランス語、ドイツ語などの現代の西欧言語では、「th」を[t]と発音します。
たとえば、「テーマ(主題)」というギリシア語由来の「ドイツ語」があります。
その綴りは「Thema」です。
また、「カトリーヌ」というフランスで人気のある女の子の名前があります。
その綴りは「Catherine」になります。
さて、ややこしいことに、「本家」のギリシアでは、「Θ」=「テータ」の音に変化が生じます。上の歯と下の歯の間に置いた舌の間から息を流して発音する独特の音です。
それは、英語の「th」と同じ音です。
thank「サンク」(感謝する)
think「シンク」(思う)
three「スリー」(3)
などの「th」です。
これは、日本語には存在しない音です。
慣例的には「サシスセソ」で書きあわらしますが、実際には「サシスセソ」の音ではないので、注意してください。
発音に変化が生じたことによって、「Θ」の呼称が変化します。
「Θ」は、「シータ」と呼ばれるようになります。「シータ」の「シ」は「th」の音です。
ちなみに、「th」の発音ですが、この音を表す「発音記号」には「シータ」の小文字が使われます。
それは「θ」です。
他の言語とは違い、英語の「th」は[θ]の音を担っています。
それは、偶然かもしれません。あるいは、ギリシア語の発音の変化を踏まえたものなのかもしれません。
英語は、古くから[θ]の音を有していました。英語固有の語彙に[θ]の発音がたくさんあります。
その音を表すのに「th」が使われました。
それに加えて、古代ギリシア、ラテン語の「th」も[θ]の音で発音するようになったのです。
「th」は、英語と他の言語で発音が異なる綴りなので、気をつけてください。
先ほど触れた単語を見直してみましょう。
「Thema」(テーマ)は英語ではないので、注意が必要です。
英語では、「theme」と綴ります。その発音は「シーム」です。
また、「Catherine」という名前の女の子は、英語話者には「キャサリン」と呼ばれます。
「th」=[θ]のつく古代ギリシア語、ラテン語由来の語彙を見てみましょう。
theater「シアター」(劇場)
sympathy「シンパシー」(同情)
theory「セオリー」(理論)
panther「パンサー」(黒豹)
myth「ミス」(神話)
method「メソッド」(方法)
その他、「th」=[θ]の英語の語彙を確認しましょう
thousand「サウザンド」(千)
third「サード」(3番目の)
thirsty「サースティ」(のどが渇いた)
Thursday「サーズデイ」(木曜日)
thief「シーフ」(泥棒)
thick「シック」(厚い)
thin「シン」(薄い)
thing「シング」(もの、こと)
through「スルー」(~を通って)
throw「スロウ」(投げる)
throat「スロート」(のど)
「th」=[θ]が語末にあらわれる語彙もあります。
wealth「ウェルス」(富)
smooth「スムース」(滑らかな)
tooth「トゥース」(歯)
path「パス」(小道)
faith「フェイス」(信念)
health「ヘルス」(健康)
mouth「マウス」(口)
month「マンス」(1か月)
length「レンス」(長さ)
worth「ワース」(~に値する)
英語の「th」は、さらにもう一つの発音を担っています。
[θ]を強く発音した音で、慣例的に「ザジ(ディ)ズゼゾ」で表記します。
the「ザ」(冠詞)
this「ディス」
that「ザット」
などの発音です。
この発音の発音記号は[ð]です。
「th」=[ð]の英語の語彙をみてみましょう。
than「ザン」(~よりも)
these「ジーズ」(これらの)
there「ゼア」(そこで)
their「ゼアー」(彼らの)
therefore「ゼアフォー」(それゆえに)
they「ゼイ」(彼らは)
them「ゼム」(彼らに・を)
then「ゼン」(そのとき)
though「ゾウ」(~にもかかわらず)
those「ゾーズ」(あれらの)
other「アザー」(他の)
another「アナザー」(もう1つの)
either「イーザー」(どちらかの)
with「ウィズ」(~と一緒に)
weather「ウェザー」(天気)
whether「ウェザー」(~かどうか)
although「オルゾウ」(~にもかかわらず)
gather「ギャザー」(集める)
southern「サザン」(南の)
together「トゥゲザー」(一緒に)
father「ファーザー」(父親)
farther「ファーザー」(さらに遠く)
further 「ファーザー」(さらに遠く)
feather「フェザー」(羽)
brother「ブラザー」(兄・弟)
bother「ボーザー」(悩ます)
mother「マザー」(母親)
neither「ニーザー」(どちらも~ない)
northern「ノーザン」(北の)
rather「ラザー」(むしろ)
以下の単語の発音は要注意です。
名詞と動詞で、「th」の「発音」が違います。
bath「バス:[θ]」(入浴)
bathe「ベイズ:[ð]」(入浴する)
breath「ブレス:[θ]」(息)
breathe「ブリーズ:[ð]」(息をする)
cloth「クロース:[θ]」(布)
clothe「クロウズ:[ð]」(着る)
補足ですが、「cloth」の複数形は、
cloths「クロースス:[θs]」(布:複数形)
になります。([(ð)z]で発音する人もいるみたいです。)
ところが、「衣服」を意味する単語は、また、少し違います。
clothes「クロウズ:[z]」(衣服)
になり、[ð]を発音しないので、注意しましょう。
さらに補足しますが、この「clothes」(衣服)の発音は、
close「クロウズ」(閉める)
と同じです。
しかし、
close「クロウス:[s]」(近い)
とは発音が違うので気をつけてください。綴りは同じですが、[z]ではなく[s]です。
はたまた余談ですが、歴史上もっとも偉大な音楽家の1人、「Beethoven」ですが、この姓名は、「beet」と「hoven」という単語が複合されたものなので、「t」と「h」の間に意味上の「句切れ」があります。
ドイツ語では、「ベートホーフン」に近い発音です。
英語では「ベィトウヴン」に近い発音で、「h」の音が消えます。(「h」を発音する人もいます。)
「beet」というのは「ビート」、いわゆる「てんさい」(サトウダイコン)のことです。「hoven」は、「ビート」と組み合わせる文脈では「農場」になります。ですから、「大根畑」というような意味の名前になりますね。
彼はドイツ生まれの音楽家ですが、祖先は現在のベルギーに住んでいたオランダ系の一族でした。
フルネームは「Ludwig van Beethoven」(ルードヴィッヒ・ファン・ベートホーフン)です。
「van」はオランダ語の前置詞で、英語の「of」または「from」に当たります。ドイツ語では「von」になります。
「van」はオランダ系の名字によく使われます。したがって、ヨーロッパ人には、彼がもともとドイツ系ではないことがすぐにわかります。
「ひまわり」で有名なオランダ人画家、「ゴッホ」にも「van」がつきます。
→「Vincent van Gogh」(フィンセント・ファン・ゴッホ)
ちなみに、「Gogh」の発音は、言語や地域によって違います。「gh」がやっかいですね。
「ゴッホ」という人もいますが、「ゴフ」や「ゴウ」と読む人もいます。
多くのアメリカ人は、「ヴィンセント・ヴァン・ゴウ」といいます。
(ivy 松村)